本と映画の埋草ブログ

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萩尾望都作品ベスト短編集といってもよい「10月の少女たち」

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萩尾望都
小学館文庫
2012年10月18日初版発行
657円+税

 短編漫画の傑作を数多く生み出している萩尾望都先生なので、短編集が数多く出版されている。なかでも小学館からは、文庫という形でたくさん出ている。
 「10月の少女たち」も、そんな一冊。
 この本は2012年という、比較的最近になって編まれた短編集であるから、絶版になって手軽に読めなくなっていた「精霊狩り」シリーズ3作、SFの傑作「あそび玉」などを収録しようというのが、その主眼だったのではないか。
 そのためか、収められた作品の発表年はバラバラ(1971年~1984年)で、ジャンルもバラエティに富んだ作品集である、といえば聞こえは良いが、悪くいえば、統一感が無く、どうかすると「寄せ集め」なのか、と思えるほどだが、しかし名作揃いなのですよ。
 しかも、巻末の解説が吾妻ひでお先生!

 最初が表題作「10月の少女たち」(1971年)。3作のオムニバスで「COM」に載ったもの。私がこの短編を最初に読んだのは、SFマンガの傑作「11人いる!」が初めて単行本として出版された小学館文庫「11人いる!」(1976年7月刊行)の巻末に掲載されていたから。大人しい文学少女が、がさつな男の子と同居する羽目になる日本を舞台にした「その2 真知子」が好き!
 「みつくにの娘」(1971年)は萩尾作品では珍しい日本の民話もの。
 その後に「精霊狩り」(1971年)「ドアの中のわたしの息子」(1972年)「みんなでお茶を」(1974年)の「精霊狩り」シリーズ3作。
 このシリーズは大好きで、特に「みんなでお茶を」は最高。楽しいしサスペンスだしお話に深みもある。個人的に萩尾作品のベストではないかと密かに思っている。余談だが、2021年の話題の書「一度きりの大泉の話」によれば、「精霊狩り」シリーズにはさらに続編の構想もあったのだが、竹宮先生とのトラブルの後遺症で(このシリーズの主要キャラクターのモデルが竹宮先生と増山さんであるため)描けなくなってしまったとのことで、大変に残念であり、日本文化にとって大いなる損失であると思う。
 それはさておき、続いて「千本めのピン」(1973年)は童話風というか絵本風というか。
 「プシキャット・プシキャット」(1974年)はたった4ページの猫がいっぱい出てくるコメディ。
 「赤ッ毛のいとこ」(1976年)は10回におよぶ明るい学園コメディの連作で、ラストはホロっとさせる。
 萩尾作品に繰り返し表れるテーマである、追憶に捕われる人生を描く「花と光の中」(1976年)。この頃の絵は本当に華麗だな!
 そして、元原稿が失われてしまったSFの名作「あそび玉」(1972年)。
 心理サスペンス「影のない森」(1977年)。
 そして、ひとりの女性と二人の男の青春と友情と愛と再生を描く傑作「十年目の毬絵」(1977年)。これが数えてみるとわずか16ページだというのに驚く。
 萩尾先生のマンガ制作裏話「デクノボウ」(1983年)。いわゆるエッセーマンガである。
 SF幻想ショートマンガ2編「砂漠の幻影」「神殿の少女」(1984年)。
 ラスト収録は、アメリカンコミックスタイルの左開き「月蝕」(1979年)。絵が凄い。

 そして、巻末には、萩尾先生をライバルであると宣言する吾妻ひでお先生の萩尾論が炸裂。お二人は同級生で、デビュー時期もほぼ同じで、SF好きなどの共通点が多いとのことで、合作(「愛のコスモ・アミタイツ・ゾーン」と「愛のネリマ・サルマタケ・ゾーン」)した際のエピソードなどもあって、楽しい解説である。
 そんなわけだから「10月の少女たち」は総合的に考えて、ベスト短編集といってもよいのではないか。