本と映画の埋草ブログ

本と映画についてあまり有意義ではない文章を書きます

字幕、電車、深津絵里。森田監督90年代の復活「(ハル)」

 90年代に入ると、あまり森田芳光映画を劇場に見に行かなくなってしまった。森田監督自身、映画監督としては不調の時期だったらしく、1992年に「未来の想い出 Last Christmas」を発表して以来、4年間作品を世に出さなかった。そんなわけで、1996年、4年ぶりとなる監督作品が、不思議な恋愛映画「(ハル)」ということになる。当時、まだ珍しかったパソコン通信とメールによる物語だ。

 この映画は当時、劇場で見ておらず、しばらく経ってからビデオで見た記憶はあるのだが、それほど好印象ではなかった。それから、また随分と時間が経った。というわけで、随分久しぶりにDVDで見た。

 

 いや、これ、森田監督らしい大傑作です。素晴らしいです。

 パソコン通信による交流を、大量の字幕で表現する大胆な手法の映画で、黒画面に白ヌキの文字が延々と続く。見せる、というより、読ませる、といった方がしっくりくる。画面的にアヴァンギャルドな映画といってよいと思う。

 

 もともと森田監督はストーリーの無い映像を、繋ぎとテンポで見せる実験的自主映画を作っていたという経歴の持ち主だ。その手法は、のちの作品の中で大きな魅力となっていた。

 「の・ようなもの」での夜の東京の街を歩くシントトちゃんのモンタージュ、「家族ゲーム」で“夕暮れ”という文字を延々とノートに綴るシーン、「ときめきに死す」の冒頭のにわか雨とすれ違う登場人物たちの無言の場面……。映像の繋ぎ方の新鮮さがいつまでも記憶に残る。こういったシーンこそ森田映画の最大の魅力なのでは、と思うのだ。

 「(ハル)」はそういったシーンに溢れている。字幕、風景、電光掲示板の点滅、電車、人物……。これらが組み合わされ、物語が紡がれていく。そして、メールが特殊なものとして描かれていて、90年代なかば、まだインターネット普及前の様子が懐かしい。ぴー、がらがら、がー、とか鳴るモデムのアナログ音、なつかしいなあ。

 

 演じる役者の方もみなさん良い。なんといっても暗い雰囲気の深津絵里が素晴らしい。THE BOOM宮沢和史が役者として出演しているのも面白い。現在、息子さんが俳優をやっており、NHKの朝ドラ「ちむどんどん」に出演中。そういえば、よく似ている。

 

 そんなわけで、今でも照れ屋の男女は、メールやSNSを活用し、出会ったりしているのだろうか。全体的にシャイな物語の進行具合も好ましい。

 ボクシング、アメフト、村上春樹など、組み合わせの妙が生む小道具の数々が、ノイズみたいにちょっと引っかかったりするところも、いかにも森田監督らしい。

 

公開:1996年3月9日

上映時間:1時間58分

 

監督:森田芳光

製作:鈴木光

企画:鈴木光

プロデューサー:青木勝彦、三沢和子

脚本:森田芳光

撮影:高瀬比呂志

美術:小澤秀高

編集:田中慎二

音楽:野力奏一、佐橋俊彦

音楽プロデューサー:祐木陽

助監督:杉山泰一

 

出演:深津絵里内野聖陽山崎直子竹下宏太郎鶴久政治宮沢和史戸田菜穂 ほか

 

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