ゴールディ・ホーンのキュートさに痺れよ「ファール・プレイ」

　私の好きな女優はゴールディ・ホーンなのだが、その魅力が大いに発揮されている映画の代表が1978年の「ファール・プレイ」である。監督は才人コリン・ヒギンズ。
　公開当時、映画館で見た際は、ゴールディ・ホーンが異様にキュートなロマンチックなサスペンス、という記憶だったが、今DVDで見直すと、かなりコメディ色が強い印象。いろいろ変な映画だなあ。
　冒頭、牧師の偉い人が殺されるシーンで掛けられるレコードのジャケットが妙だな、と思ったらどうやら「ミカド」と読める。日本を舞台にした有名なオペラらしく、Wikipediaを見てみると1885年に初演された歴史あるモノらしい。映画のクライマックスが実際その舞台なのだが、なんだこれ、って感じのいかがわしさ。しかも、その前段で主人公の二人がタクシーを奪って暴走するシーンがあって、ここでたまたま乗り合わせてしまった乗客も日本人の観光客老夫婦。ありえないほど暴走するタクシーの後部座席で爆笑している日本人老夫婦は、ほぼ狂人として描かれており、この映画一番の笑いどころといえなくもない。そういった具合で、日本ギャグみたいなものが炸裂しているのが面白い。
　1970年代後半、日本人が世界各国の観光地に大量に押し掛け、各地でエキセントリックな振る舞いを繰り広げていた時代だったのだなあ。そういえば、ずいぶん以前に見た「激走! 5000キロ」（1976）のクライマックスで、レースを妨害してしまう団体観光客も日本人だった記憶が……。
　話が逸れてしまった。「ファール・プレイ」は、離婚によって愛に傷ついて男性不信のゴールディ・ホーンが、信頼できる（？）男のチェビー・チェイスに出会うことで、愛を取り戻すお話である、といったことは割とどうでも良くて、ヒッチコック風の巻き込まれ型サスペンスをコメディでやるっていうのが本筋。とにかく常にゴールディ・ホーンを劇的状況にさらすためだけに物語が貢献している。そもそも悪役があまりに間抜けだし、重要なカギを握る筈の煙草に隠されたフィルムも、いったい何なのかさっぱり分からない。劇場へ向かうための大暴走のカーチェイスシーンはありえなく、あれでは人が死んだり、大勢が大けがを負っているはずだ。でも、そんなことは、どうでもよいことであり、ゴールディ・ホーンのキュートさが溢れているか否かが重要なことなのだ。実に楽しいと言わざるを得ない。
　というわけで、以下、感想を羅列。
●オープニングタイトルは崖っぷちを走る車の俯瞰で、映像的に「シャイニング」の冒頭にそっくりなのだが、こちらのバックに流れるのはオドロオドロしい現代音楽などではなく、バニー・マニロウ！　全然雰囲気違う！
●「こびとに気をつけろ！」という言葉がサスペンスのキモになるのだけど、実際小人が出てきた際のあの災難は爆笑もの。ヒドすぎる。
●ちょっと間抜けな悪者から逃れるゴールディ・ホーンの、びしょ濡れからのジャンプが最高。
●ダドリー・ムーアは出番が少ないのだが、この人の出てるシーンはいずれも爆笑。最高！
●ヒッチコック映画へのリスペクトを感じさせる「ファール・プレイ」であるが、メル・ブルックスのパロディ映画「新サイコ」が1977年とほぼ同じ時期の公開。さらに、ブライアン・デ・パルマの「愛のメモリー」が1976年である。このころはヒッチコックが流行っていたのか？　ちなみにヒッチコック最後の作品「ファミリープロット」は1976年で、亡くなったのは1980年なので、「ファール・プレイ」が公開された1978年、ヒッチコックは存命中。
●監督は若くして亡くなったコリン・ヒギンズで、この後すぐに撮った「9時から5時まで」（ジェーン・フォンダ！）も楽しいコメディだった。公開時から見直していないので、見てみたいと思っている。
●「ロッキー」のトレーナー・ミッキー（バージェス・メレディス）の大活躍が大変うれしい。悪の女ボスとの空手による格闘シーンが最高で、最近の映画の目にもとまらぬ殺伐とした格闘シーンとは一線を画す心温まる（？）アクションに痺れる。
●やはりゴールディー・ホーンの魅力に尽きる。この後、「昔みたい」（脚本がニール・サイモン！）でもチェビー・チェイスと共演しており、これも面白かった記憶があるので、こちらの映画も探してみようと思っている。いまなら、配信ですぐに見られるのか。