この自虐を笑えるか!「喜劇 愛妻物語」
驚いた。
タイトルとキャストから、ほのぼのしたホームドラマだと思って見たのだった。若干、違うかもしれないとの予感もあったのだけど、ほぼ何も知らずに、「感」で借りたDVD「喜劇 愛妻物語」。
売れない脚本家と、それを支えるパート従業員の妻、5歳の娘。モノになりそうな映画化シナリオ執筆のため、香川へ取材旅行に行くこととなった主人公(濱田岳)だが、車の免許が無いために妻(免許所有者・水川あさみ)と子供を連れ、家族旅行を兼ねるというのが、大まかなプロット。とにかく全編にわたり、水川あさみがダメな夫である濱田岳を罵倒し続け、見ている方も、あまりにダメな濱田岳の体たらくに、それも仕方ないかもしれないなあ、と思いつつ、延々と続く妻からの罵詈雑言に、徐々に気持ちが沈んでいくといった映画であった。
水川あさみのセリフの強度が凄まじいレベルで、「子供の前でそんな汚い言葉、やめろ」と夫が言うのも理解でき、これほどの悪口を聴き続けるという映画は珍しい。テレビのドラマだとNGレベル! 水川あさみ、よくこんな役を引き受けたなあ、と感心する。
ストーリーとして、シナリオを完成させるという目的のほか、夫にはもう一つ大きな目標があり、それは少々ご無沙汰な妻とのセックスを完遂するというもので、そういうある種ドメスティックで情けない(だからリアルで見ていられない)目的も相まって、濱田岳が演じるダメ夫の情けなさが凄まじく感じられるのだった。
ここまでのクズ描写には理由がある筈だ。それはおそらく「自虐」であろう。この映画は「自虐ギャグ」をひたすら描いたものなのかも。監督の足立紳氏は脚本のコンテストで名を挙げた方のようである。自分をモデルとして「架空のクズなシナリオライターの家族の物語」を作ったのだと思われる。もしかすると、足立氏の奥様は水川あさみ演じる凄い迫力の(あるいは凄い美人の)奥さんなのかもしれない。そして、映画の情報をネットで引っ張ってみると、実際、原作が「自伝的小説」であるとのこと。
この映画は、そのような自虐ギャグの連続なのだから、これを見て「引いて」しまうのは、ダメなのかもと思う。笑うのが正解なのであろう。作り手側はこう思っているのだ。「どうだ。このクズっぷりを笑えるか」。ある種、観客に対する挑戦だ。
なんかすごいな、と思ったが、私は笑って見られたろうか。ちょっと、引いてしまった気がする。この映画を観るにあたり、引くのは、負けだと思う。
笑って見るべき!
喜劇 愛妻物語(2019年)117分
監督:足立紳
脚本:足立紳
撮影:猪本雅三