本と映画の埋草ブログ

本と映画についてあまり有意義ではない文章を書きます

落語初心者が見た「幕末太陽傳」という映画

 最近になって落語を聞き始めた落語初心者の私が、懸案としていた映画をようやく見た。日本映画史上に燦然と輝く傑作と謳われる「幕末太陽傳」である。ベースとなっている落語は「居残り佐平次」とのことで、佐平次をフランキー堺が演じている、くらいの知識でDVDを借りた。「日活創立100周年記念」と銘打たれたデジタル修復版。

 開幕、いきなり品川宿を馬が駆け抜け、銃撃戦が行われる。派手なオープニングに驚いていると、唐突に電車が通りぬけて、さらに吃驚する。現在の(といっても公開当時の1957年なので、今からすると、それ自体が歴史的風景なのが興味深い)品川の風景がタイトルバック。ナレーションで品川を説明し、軽快なテンポで観客をふたたび幕末の品川宿遊郭にいざなう。

 

 見る前の予想として「幕末太陽傳」は、落語的なミニマムな、もっとささやかなコメディ映画だろうと思っていたのだが、あにはからんや、すごいスピードとパワーの堂々たる大作映画の風格だった。品川遊郭のセットが相当に大掛かりに見えた。昔の映画は、すごいなあ。

 落語で耳でのみ聴いていた遊郭の広い階段と廊下というのは、このような姿であったのか!

 ただ、パワー溢れる登場人物とエピソードの多さに、ついていけない部分もあって、理解する前にあれよあれよと映画は進み、佐平次は遠くへ駆けて行ってしまう。

 

 この映画、とにかく出演陣が凄くって、まあ、昔の映画にありがちなこととは思うが、出演当時はそう有名でもなくても、現在では大スター(というか伝説)になっている方々が大勢出演。石原裕次郎の若き姿がそのひとつだし(タイトルの太陽傳ってのも、「太陽族」からの由来?)、左幸子南田洋子芦川いづみという女優陣。菅井きんが、この時代ですでに「やりてのおばさん」役というのが凄い。コメディリリーフとしての小沢昭一熊倉一雄殿山泰司の登場も贅沢な感じがする。

 

 古典落語の小ネタが満載で、落語初心者の私には拾えないものも多かった。ただ、一つ確実なのは、細かなことなど分からずとも、フランキー堺の動きと喋りが凄いのは一目瞭然だ。私の世代では、コメディアンとしてのフランキー堺というのは実はよく分からない。フランキー堺っていう方は、よくは知らないけど大物タレント、という認識だった。小林信彦が選んだ〈20世紀の邦画100〉(単行本「2001年映画の旅」収録)での「幕末太陽傳」評は実にそっけなく「のべつ上映しているから、今さらホメる必要もあるまい。フランキー堺はこの映画で燃えつきた」とのこと。

 

 映画「幕末太陽傳」、もうレンタルDVDは返してしまったが、2度3度と観ると、もっと面白くなっていくタイプのものだと思った。

 

幕末太陽傳 (1957年)110分

監督:川島雄三

脚本:田中啓一川島雄三今村昌平

撮影:高村倉太郎

出演:フランキー堺左幸子南田洋子石原裕次郎芦川いづみ金子信雄 ほか