筒井康隆断筆解除作「邪眼鳥」は難解
邪眼鳥
新潮社
1997年4月25日初版発行
1300円+税
筒井康隆氏の断筆解除後に出た短編集「エンガッツィオ司令塔」を先日再読した影響で、断筆解除作「邪眼鳥」が気になり、こちらも再読することにした。
「邪眼鳥」の出版は、世間的にも、私にとっても、ちょっとした事件だった。ようやく筒井氏の断筆が解除され、表紙にもでかでかと「復活第一作!!」と謳われ、3年半ぶりに新作が読めるということで、前のめりで読んだ記憶がある。もう25年も前のことなのだなあ。
「顔のある者がいない。」というかなり印象的な書き出し。そこでは、富豪・入谷精一の通夜が営まれ、残された若き美貌の未亡人に注目が集まっていた……、と凄く面白そうなのだが、その後の内容を全く覚えていない。なんでだっけ、と今回再読して、どんどん思い出してきた。難しいのだ。
読み進めると、連続する文章の途中で場面や語りの視点や時代が変わったりするなどの前衛的手法が使われていたり、文章が異様に凝っていたり、物語も訳が分かんなかったりし、読み続けるために緊張を強いられるタイプの小説だ。難解、問題作、といってよいと思う。
断筆中の比較的余裕のあるときに様々な工夫を凝らして構築された小説であるだけに、難解さでは筒井氏の小説の中でもトップクラスなのではあるまいか。25年前にまったく理解できず、それで記憶に残っていなかったのであろう。
もちろん今回も歯が立たなかった。仕方がない。こうなったら、オドロオドロしい雰囲気の平野甲賀氏の装幀が素晴らしい、という、とてもわかり易いところを褒めるしかない。