わからないものを、人は「怪物」と認識する
先日行われたカンヌ国際映画祭で脚本賞を受賞したという話題作。監督は是枝裕和。脚本は坂元裕二。音楽は先日亡くなった坂本龍一。
テレビドラマ「カルテット」「初恋の悪魔」を見て坂元裕二という人に注目していたので、この方が是枝監督の新作で脚本を書くというので期待していた。さらにはカンヌ映画祭で大きな話題になり期待は膨らむ。
見終わって、「ああ、面白かった」と単純に思った。カンヌで賞を取ったなんていうから、アートフィルムみたいな映画だったら嫌だなあと思っていたが、ミステリーっぽくて、話を面白く追えるタイプの映画だった。
視点が変わって事件の見え方が変わる構成であるというのは事前に何かで読んだ。黒澤「羅生門」タイプなのかなあ、と思って見たが、っていうより、視点の移動はサスペンスを盛り上げ、より真実へ近づいていくといった「語り口」の面白さを狙った構成だと思う。
実に面白く見て、見終わった瞬間「もう一度、頭から見直したい」と思った。ただ、何度か見直すと、ストーリーに一部不可解な点が出てくるんじゃないかという気もする。視点を変える際に事件が新たな見え方をしなくてはならないという都合上、あらかじめ観客をミスリードする必要性があり、そのため、少し演出しすぎてしまった部分があるように思った。
いや、まて。落ち着いてもう少し考えてみよう。
この映画は、わからないものや思い込み、誤解についての映画と言えるのではないか。理解しがたいものを「怪物」にしてしまう、ってことがタイトルの由来ではないのか。そうすると、「語り口」に視点の移動を選んだことも必然だ。あえてそのシーンを描かないとか、現実ではないかもしれないシーンを入れるという手法で、わざと説明していないことがあり、実のところ、釈然としない点もいくつかある。見終わって数日経つが、わからないことが多い。
見終わってすぐは、分かったつもりで「ああ面白かった」と思ったのに、その後、よくわからなくなっている。見終わった後もいろいろ考えさせられるというのは、面白くてよい映画だったということなのだろう。
俳優陣が素晴らしく、特に是枝監督の映画を見るたびに子供の演技がすごいと感じるが、今回も二人の子役が素晴らしかった。
ミステリーっぽい構成の映画であるだけに、まったく何も知らずに見た方が、より楽しめることは間違いない。
怪物(2023年)125分
監督:是枝裕和
脚本:坂元裕二
企画・プロデュース:川村元気、山田兼司
撮影:近藤龍人
音楽:坂本龍一