本と映画の埋草ブログ

本と映画についてあまり有意義ではない文章を書きます

モーさま上京一年目1971年の傑作群「11月のギムナジウム」

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萩尾望都
小学館文庫
1976年4月20日初版発行

 昔々、長く愛され名作と呼ばれるような本は文庫本となり、安価で広く流通されている、と思っていた時代があった。現在は、そうではなく、「あ、これ文庫になっている!」と見つけた瞬間に買っておかないと、あっという間に絶版になっていて驚く、というくらいのものである。
 そういったわけで、70年代中ごろのことだから、大昔といってよいと思うが、このころはまだ名作を文庫にして残す、といった神話が有効性を持っていて、だから名作マンガを文庫にしようという出版社が現われ、白土三平忍者武芸帳」とか、つげ義春ねじ式」とか、石森章太郎サイボーグ009」とかを文庫版で出したら、これが大当たり。小学館文庫という名で、その後ほかの出版社も続々と文庫サイズのマンガを出し、マンガ文庫ブームというものが起きた。

 といったわけで、萩尾望都の初期短編集「11月のギムナジウム」も小学館文庫の一冊として1976年4月に発行された。
 あとがきに「上京一年目の作品群」とある。
 収録作は以下の9作。

「11月のギムナジウム」1971年11月
「雪の子」1971年1月
「塔のある家」1971年2月
「白い鳥になった少女」1971年10月
「白き森白き少年の笛」1971年9月
ビアンカ」1970年5月
「小夜の縫うゆかた」1971年6月
「秋の旅」1971年8月
「かわいそうなママ」1971年4月

 ちなみに私の持っているのは1976年に出た古い小学館文庫で、現在も小学館文庫で同名の本が発売されているが、収録作が違っているようだ。

 久々だったので、かなり新鮮な気持ちで読めた。いやあ、驚きだ。いずれも傑作すぎる。
 そして発表の日付を見て、さらに驚愕した。ほぼ毎月、これらの名作が発表されていたのだ。奇蹟の年なのか1971年!

 短編とはいえ、表題作「11月のギムナジウム」は45ページもある。いわずとしれた名作「トーマの心臓」のアナザーストーリーだ。
 「塔のある家」のお話は、2時間の文芸大作映画のような重厚さと繊細さ。いずれも、絵がおそろしく魅力的で、話が感動的でしかも面白い。
 萩尾初期作品としては珍しく、日本を舞台とした「小夜の縫うゆかた」は、読み終えたとき、良質な日本映画を見終わったのと同じくらいの満足感と感動を得られるが、ページ数を確認してみると、わずか16ページだったりして、びっくりする。そして、よくよく読んでみると、その半分くらいが主人公・小夜の回想が占めていて、その回想部分の絵とページ運びが、映画用語っぽく記せば、とても美しいモンタージュなんですなあ。いやあ、なんだこれ、素晴らしいです。

 1971年にはこのほか「精霊狩り」や「10月の少女たち」などの作品が発表されていて、この時期にはどんどん名作が描かれていたほか、講談社の雑誌でボツとなっていた短編が小学館の雑誌で復活した、という要因もあるのかもしれない。